『アメイジング・グレイス』とともに by Mory
2013年 01月 12日
熊谷たみ子さんを見送ってきた。
ドキュメンタリー映画『TOKYOアイヌ』のラストで、アイヌ語の『アメイジング・グレイス』を歌ったたみ子さん。彼女の歌がラストを飾ったのも、私が編集に手間取っていたせいで、本当はあの歌が歌われる前に、映画は完成しているはずだった。
最後の詰めの作業に苦しんでいたとき、「アイヌ感謝祭」でたみ子さんがアイヌ語で『アメイジング・グレイス』を歌うと聞き、それはぜひ撮っておきたいと、完成をのばしてもらった。
そのとき、すでにたみ子さんは宣告されていた余命を超えて生きており、残された命を精一杯生きていた。『アメイジング・グレイス』の背後にあるたみ子さんの物語を、映画では一切説明しなかった。しかし、上映会でたみ子さん自身の口から語られた物語、そして歌われた歌を聴くことで、その場に居合わせた人々は、改めてあの歌の価値を感じ取ってくれたに違いない。
弔辞を読み上げるときから、たみ子さんの『TOKYOアイヌ』で歌った『アメイジング・グレイス』が静かに会場に流れ出した。その時から、会場の空気が変わった。読経の声に身を潜めていたたみ子さんが、自分の出番とばかりに参列した人々に向かって歌い始めたようだった。
出棺を前に喪主のご主人が挨拶をされた。終わりに参列した私たちに「ありがとうございました」とおっしゃったそのとき、ループ再生されていた『アメイジング・グレイス』をたみ子さんは歌い終わり、彼女の「ありがとうございます」という言葉が同時に聞こえてきた。
初めて人前でアイヌ語の『アメイジング・グレイス』を歌い上げたとき、たみ子さんは聴いてくれた聴衆と、歌わせてくれたカムイに感謝の気持ちを伝えた。そして、この世にさようならをするときにまた、彼女は感謝の気持ちを残して旅立った。
外へ出ると空は青く澄み渡り、たみ子さんの笑顔そのもののような春を感じさせる日差しがまぶしかった。
*ドキュメンタリー映画『TOKYOアイヌ』 東京・中野での上映スケジュール
2013年1月27日(日)
2013年2月24日(日)
2013年3月31日(日)
いずれも14:00~
詳しくはこちらを
http://www.2kamuymintara.com/film/schedule.htm